　家ではにぎやかな子なのに、園では元気がなく、声も出ません

「保育園に通っている満５歳の女の子です。うちではとても人なつこく、よくしゃべってにぎやかな子どもですが、保育園では全然元気がなく、先生とも話をしませんし親しい友だちもできません。「あたし保育園にいくと声が出なくなるの」と言っています。歌もじょうずに歌えるのに、皆の前に出て歌うことができません。字を読んだり書いたりもできるのに、園では駄目なのです。と言って園が嫌いと言うのでもなく、１回も休まずに通っています。どうしたら園で皆さんと同じように話せる元気のいい子になるでしょうか。」

「じょうずにしなければ･･･」という意識が強すぎると･･････

いわゆる「内弁慶の外すぼみ」であるのに、園には１日も休まずに通っている子どもは、心の中では園の生活の楽しさを味わっている子どもです。みなといっしょに行動していなくても、お友だちのすることをよく見ていますし、お友だちがいろいろしているその楽しさに共感しているのです。共感というのは、そのお友だちと同じような気持になっているのです。このような子どもは家に帰ってくると、園でお友だちがしていたのと同じような行動を演出して見せることがよくあります。先生のしていることをよく見ていて、家の中でそれをまねして見せることもあります。

このような子どもは、じっと待っていても、やがてみなといっしょに遊び始めるでしょう。ですから、とくに働きかけをしなくてもよいのですが、なぜこのような子どもになったのか、その原因について考えてみて、それを取り除くように努力することは、これからの子どもの人格形成には役立つと思います。

原因の第１は、お母さんや家族に、誤った「よい子」のイメージがあって、それを子どもに押しつけたことが考えられます。例えば、園にいくと声が出なくなるのは、自分の気持や考えをありのままに言うことができないからです。それはじょうずに話さなければならないとか、正しい言葉を使って話さなければならない―といった具合に「ねばならない」という意識にとらわれてしまうからです。子どもはもともと「自由に」自分の感じたことや考えたことをおしゃべりできるのですが、お母さんや家族からいろいろと誤った「しつけ」をされると、それがこだわりとなって、「自由に」おしゃべりをすることができなくなってしまうのです。また、園で歌を歌うことができなくなるのも、じょうずに歌わなくてはならない―とか、他人から笑われないように歌わなくてはならない―といった気持が働いてしまうからです。そうした気持の働きは、家で歌ったときに、お母さんや家族からいろいろと批判されたり、じょうずに歌うように励ましを与えられているからです。ですから、子どもは、へたに歌ってはならない―とか、じょうずに歌わなければならない―といった気持になってしまいます。

子どもらしい子どもの姿に戻してあげる

このような子どものお母さんは、教育熱心です。そして、完全欲求が強いものです。完全欲求とは、１００％じょうずにやってほしいという願いをもっていることを言います。それだからこそ、お母さんにとって満足のできないことがありますと、子どもを批判したり、非難してしまうのです。これからは、できるだけ批判や非難をしないようにしなければなりませんし、むやみにほめることも慎む必要があります。むやみに―と言うのは、よくできる子どもにしたいというわけで、「よくできるね」とほめることが多いことを言います。ほめられることが子どもにとってうれしいことですが、うっかりしていますと、だんだん優越感が強くなってしまいます。自分はよくできる子だと思うと、それを維持するために、失敗を恐れるようになってきます。そうなると、他人の前に出たときには、緊張状態におちいってしまいます。ですから、声も出なくなるし、歌も歌えなくなってしまいます。

親たちや先生にほめられてばかりいて、優越感をもち続けてきた子どもがちょっとした挫折の経験をしますと、ぼくはダメなんだ―という挫折感が強く、登校拒否を起こしたり、自殺をすることさえもあるのです。小学校でずっと１番の成績を取っていた子どもが中学生になって７番目になっただけで、自殺をしているのです。そのような子どもは、自分は頭がいいと思い込んでいて、それが価値観になっているのです。つまり、頭がよく、成績もよいことで自分は「よい子」なのだとうぬぼれていたのです。

その点で、お母さんが「字を読んだり書いたりもできるのに」と、お子さんの知能の高いことを誇っているような趣があるのは、非常に気にかかります。知的な能力が高くても、人格形成にゆがみができたのでは、哀れな人生を送ることがあるからです。その意味で、子どもらしい子どもとはどのような子どもかについて、お母さんが勉強して下さるように望みたいのです。