「４歳３ヵ月の男の子でございます。小水は１人でできるのですが、大便で困っております。時間を見はからってはお便所に連れていくのですが、何時間お便所に置いておいてもしないのです。そして便所から出してやると、すぐズボンの中にもらしてしまうのです。いくら叱っても叩いても、ヤイトとすえても、便所ではしないで必ずズボンの中にしてしまいます。この悪いくせがなおるでしょうか。お教え下さいませ。」

排便のしつけをあせったのでしょうか

これは、排便のしつけの誤りから生じている現象です。ある時期に厳しいしつけをしたことによって、排便に恐怖をもつとともに、お母さんに反抗心をもってしまっているためです。

わが国には、昔から、早くから排尿や排便のしつけをしたがる傾向があります。そして、早く失敗しないようにしつけると、得意になるお母さんが少なくありません。これは、昭和２０年代まで、早くしつけのできたお母さんを賢母のように言う習慣があったからです。ですから、早くおむつがとれると、得意になるお母さんが現れます。そうして得意な気持でいたところへ、子どもに失敗をされると、怒りがこみ上げてきて、叱ったり叩いたりします。１歳から２歳のころにそのようなことがなかったでしょうか。

あるお母さんは、排便の失敗をした子どもを押入れに入れて、子どもに暗闇の恐怖を与えてしまいました。そのために、子どもはトイレにいっても全く排便をしない状態になってしまったのです。そうなると、お母さんはむきになりました。そして、排便をするまでトイレに閉じこめておいたのです。その結果、ずぼんの中でするようになってしまったのです。しかも、大便がしたくなると、部屋の隅にいって立ったままズボンの中にしているのです。それに腹を立てたお母さんは、そのたびにお尻を叩いていました。

その３歳の子どもを私が預かったのです。そして、どこにしても絶対に叱ったりしないようにしました。近くに寄ってきたときに臭いがしているときには、黙って着替えをさせてあげ、お尻を温かい手拭いでふいてあげることにしました。それまでの抵抗感を取り除くためです。どんなに失敗しても叱られない―という気持を育てたのです。また、添い寝をしました。そのお母さんは、子どもの独立心を育てるのだ―ということで、添い寝をしなかったからです。子どもは、初めは添い寝をいやがりましたので、それを大切にして添い寝を強制せずに、ひざの上に乗せていっしょに遊んだり絵本を読んであげたのです。そのうちに、自分から添い寝を求めてくるようになりました。つまり、大人に対する警戒心を捨てたのです。お母さんに叱られることの多い子どもは、大人に対して警戒心をもっています。それがうすれますと、子どもはからだの甘えを現すようになるものです。子どもが私にからだで甘えるようになれば、しめたものです。これまでにお母さんから与えられた心のしこりがほどけたことを意味します。私は十分にからだで甘えてもよいような体制を作りました。私はもともと添い寝が好きですから、その子どもの求めに応じて３週間添い寝を続けました。するとどうでしょう。自分１人でトイレにいって排便するようになったのです。

しつけが厳しいと、子どもは抵抗を示します

その間に、私は、お母さんと何回も話し合い、厳しいしつけがいかに危険であるかを話しました。からだでお母さんに甘えることにできないようにしておいて、しつけを急ぐと、子どもはお母さんを冷たい人と思って、いろいろと抵抗を示します。そのような話し合いの中で、お母さん自身、小さいときから厳しいしつけを受けたために、他人に対して、心を閉ざすようになってしまったこと、それがいかに苦しいものであったかをしみじみと話してくれたのです。小さいときから、親の肌のぬくもりを感じたことがなかったことも話してくれました。しかし、しつけの型の中で教師にも「よい子」として認められ、見合いで結婚したのも相手からしっかりしていると認められたからだと話してくれましたし、厳しいしつけがよいことだと思い込んでしまっていたことを告白しました。

家に帰った子どもは、おおらかなお母さんの態度に接して、お母さんにからだで甘えることできるようになりましたし、自分の思っていることをありのままに話すようになりました。

子どもは、自分の気持を自由に表現できる明るさを取り戻しました。お母さんも、子どもといっしょにいると楽しい気分になることができるようになったのです。子どもに早くしつけをしなければならないと思って、いつもいらいらしていたということです。しつけをやめてもよいということを私に聞いて以来、子どもが障子に絵を書いたりしても、それを楽しむようになりました。