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「満4ヵ月になる女の子ですが、アデノイドが出ているとかで、かぜを引きやすいのです。また、アデノイドが出ていると脳にもさしさわり、学校の成績も悪くなると聞きました。それで1人の医者は切り取った方がいいと言い、他の1人は切らなくてもいいと言います。この子のためにどちらを選べばいいでしょうか。」
手術を簡単に考えてはいけません
アデノイドという器官はのどの奥の上のほうにありますから、鏡を使って映し出さないと見えません。ですから、それが大きいかどうかはお母さんには見えません。しかも、大きいかどうかは比較的な問題であって、どのくらいの大きさならば正常なのかについては、あまり研究されてきませんでした。
アデノイドといっしょにいつも問題になるのは、扁桃の肥大です。それは、子どもの口を大きくあけさせてみれば、お母さんにもよく見えます。その肥大の程度に応じて、T度からW度に分けている医者もいます。しかし、この扁桃も子どもの年齢と関係していて、多くの子どもの扁桃が3、4歳から大きくなり始めますが、思春期になると小さくなってしまいます。アデノイドも同じです。では、アデノイドや扁桃は、子どもにとってどのような役割を果たしているのでしょうか。これらはリンパ系統の器官であって、ビールスで起きる病気に対して免疫を作り出すと考えられていますから、子どもにとっては大切な器官ということができます。ですから、単に大きいからといって手術で取り除いてしまうのは大きな問題です。しかも、思春期になるころには自然に小さくなるのですから、様子を見ていてもよいということになります。
アデノイドや扁桃が大きいとかぜを引きやすいと言われることがありますが、これには疑問があります。と言うのは、かぜはビールスによる伝染病であって、ビールスの感染によって起きる病気だからです。そのビールスにもたくさんの種類があり、種類のちがったビールスに感染すれば、何回かかぜを引くことになります。ですから、アデノイドや扁桃が大きいことと、かぜを引きやすいこととは直接関係がないと考えてよいわけです。
かぜのビールスに感染したときに、アデノイドや扁桃が大きいと発病しやすいかどうかについてもはっきりしたことがわかっていません。何しろ、3分の1ぐらいの幼児のアデノイドや扁桃は大きいのですから。そして子どもによっては、1年に何回もかぜを引くということがあり、そのあと全くと言ってもよいほどかぜを引かなくなることさえあるのです。私は、これまでに、かぜを引きやすいと訴えたお母さんに、乾布まさつをすすめて非常によい効果をあげてきました(項目「小児ぜん息で苦しんでいます。何かよい治療法はないでしょうか。」参照)。その子どもたちの中に、扁桃やアデノイドの大きい子どもも含まれています。
このように考えてきますと、手術を簡単に考えてはいけないことがわかります。医者の中には、簡単に外来で手術ができるように言う者がいますが、手術の際の出血多量で死んだ子どもの例も報告されていますから、かりに手術をするとしても、大きな病院で十分に設備の整ったところですることが必要です。
では、どのような場合に手術を考えるのでしょうか。それは、扁桃などに溶連菌というばい菌が巣を作り、そのために腎炎が起きる危険性のあるときです。しかし、そのような例は非常に少ないので、大きな病院の小児科で手術をすべきかどうかを相談する必要があります。小児科医の多くは、手術に対しては非常に慎重な態度でのぞむでしょう。
「アデノイドが大きいと頭が悪くなる」というのは迷信
なお、アデノイドや扁桃の肥大があると、学業成績に関係する―などといいふらされたことがあります。誰がどのような研究をしてそのことを言い出したのか、あれこれと調べてみましたが、ついに見当たりませんでした。アデノイドや扁桃はリンパ系統の器官ですから、脳神経系とは全く関係がないわけです。また、学業成績はいろいろなことによって影響されますから、扁桃やアデノイドが大きいこととはすぐに結びつきませんし、すでに述べたように、3分の1の子どもが大きいのですから、関係をつけること自体がむずかしいわけです。1日も早く、アデノイドや扁桃が大きいと知能を悪くする―といった迷信みたいな言い方をなくしたいものです。以上、いろいろとお話しましたが、これまでの医学にも当てにならないことが多いことがわかっていただけたでしょうか。
結論をはっきりと言えば、かぜを引きやすい―といったことで手術をするのはつまらないことです。
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