4歳になるのに、言葉だけがおそく、思うようにしゃべれません

「私は今大阪で病院生活をしておりますが、孫の4歳5ヵ月になる女の子のことでおたずね致します。いまだに口が思うようにきけず、パパ、ママ、ジジの3つだけしか言えないのです。1人前にいたずらはしますし、ブランコ、すべり台にも乗れます。大小便ももちろん1人でできますし、ものを頼めば返事こそしませんが言った通りに致します。来年は幼稚園にも入れたいのですが、こんなことではとても入れそうもありません。ただものさえ言えればいいのです。どうしたら話ができるようになるでしょうか。孫のことを思うとかわいそうで死んでも死にきれない思いです。」

お母さんの話かけが少なかったのでしょうか

言葉だけが発達のおそい子どもについては、2つのことが考えられます。

その1つは、生まれつきによるもので、始語(言葉の話し始め)もおそく、その後も話し言葉の数の増し方が少ないという子どもです。とこらが、3歳を過ぎるころから急に言葉の数がふえ、どんどんとしゃべるようになり、五歳前後にはふつうになっている例があるのです。この原因はまだはっきりしていません。

もう1つは、言語環境といわれているもので、大人からの言葉の刺激がどれくらいあったか―ということと関係します。第1に、言葉の刺激の必要な時期は、乳児期の前半です。この時期に赤ちゃんを十分に言葉をかけてあやしたかどうかがその後の言葉の発達にかかわってきます。

これは私たちが経験した例ですが、Aのお母さんは子ども好きで、赤ちゃんが始めてできて大喜び。とくに2ヵ月ごろに表れた微笑がかわいくて、さかんにあやしました。すると赤ちゃん言葉がどんどんとふえましたし、4ヵ月ごろから声を立てて笑うようになりました。ところが、Bのお母さんは子どもが好きでなく、子どもは作らないと思っていたのに妊娠したのです。妊娠中絶をしようと思ったけれども、1人ぐらいは―と思って生んだのだそうです。ですから、微笑が表れても、あやそうとしません。その結果、赤ちゃん言葉はふやさないばかりか、6ヵ月を過ぎたころには減る傾向さえみえたのです。しかも、あまり笑わない赤ちゃんになってしまいました。

子どもの言葉は、お母さんや家族の人たちから言葉の刺激を与えられて発達しますが、その際に、相手をしてもらうことの楽しさを経験していることが必要です。そうした経験がありますと、あやしてもらいたくてさかんに赤ちゃん言葉を発するようになるのです。つまり、相手とのコミュニケ―ションをもとうとする意欲が湧いてきます。そして、お誕生日前後になると、平均的に言えば、二語を話すようになりますが、それにも個人差があって、10ヵ月ごろから言葉を話し始める赤ちゃんがいるのに対して、それが1年4、5ヵ月になることがあります。

ところが、乳幼児にお母さんのお相手が少なく、あやしてもらえなかった赤ちゃんは、相手がいても言葉でコミュニケーションをつける意欲が少なく、それが言葉のおくれの原因になっていることが少なくありません。そのような赤ちゃんは、お母さんとの情緒的な結びつきが不十分なので、「人見知り」がなかったり少なかったりします。

言葉のおくれを訴えるお母さんがふえています

1歳半検診や3歳児検診が保健所で実施されていますが、そのときのお母さんからの訴えに、言葉のおくれが多くなっています。そこで心理判定員が、玩具でいっしょに遊びましょう―と子どもたちを誘ってみますと、すぐにお母さんから離れて、心理判定員のところに集まってきしまうのです。つまり「人見知り」がないのです。ところが、お母さんたちは、それを満足そうに見ています。「人見知り」がないので、独立心が育っていると思っているのですが、私たちはこれをニセの独立心といっています。お母さんとの情緒関係ができていないことの表れであるからです。

3歳までの子ども、あるいは3歳半までの子どもは、慣れていない場所で、見慣れていない人に「遊びましょ」といわれても、お母さんにしがみついて離れようとしないものです。それが「人見知り」ですが、「人見知り」があってこそ、お母さんとの情緒的な結びつきができているわけで、それは赤ちゃんのときに十分にあやしてもらったり、抱いてもらったりしていることも表れです。そのような子どもには、当然、言葉のおくれは表れませんし、むしろ、四歳になりますとおしゃべりになってうるさいくらいです。これは、自分が親たちに受け入れられていると思っているからです。

そこで、私としては、そのお子さんの成育史をお母さんから聞いてみたいと思います。そして、母子間の情緒的な結びつきが十分でなかったとしたら、お母さんにスキンシップを中心としたかかわりを十分にもってもらうように提案します。また、できるならば「遊戯療法」をするとよいでしょう。それは、子どもの心の解放に役立つからです。

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