テレビのコマーシャルはすぐおぼえるのに、数や字はちっともおぼえません

「5歳2ヵ月の男の子です。来年幼稚園に入るまでに、少しは数も数えられるように、自分の名前を書けるようにと何とかして教えようとしても、ちっともおぼえようとしません。テレビやラジオのコマーシャルソングなどはすぐにおぼえてじょうずに歌っていますし、ちえづきも親の欲目か人並み以上です。それなのに数や字となると興味を示さないのはどういうわけでしょうか。無理なく教え込むにはどうしたらいいか、お教え下さい。」

無理に教え込もうとすると、かえって勉強ぎらいに

このようなご質問をたびたび受けるのですが、そのたびに私は心が暗くなるのです。それは、これから15年以上の学校生活の中で、子どもはくり返しくり返し勉強のことでお母さんから責められて、暗い人生を送るのではないかと思うからです。そのように責められながら成長し、思春期以後になって問題を起こす子どもをたくさんに見てきました。小学校を終えるまではお母さんのほうが力が強いし、子どもは生活力がないので、お母さんに服従していますが、思春期以後になりますと体力もつき、しかも家出をしても何とか生活ができるので、お母さんに暴力をふるったり家出をしてしまう例が、私の頭に浮かぶのです。

お母さんにしても、今の日本の学歴社会のことを考えると、早くから知的能力をつけてあげたいと思うでしょう。そして、お母さんの思い通りにならないと、子どもを叱ったり叩いたりしたくなるでしょう。しかし、その結果、子どもの人格にはゆがみが生じてしまいます。子どもが数をおぼえない、字をおぼえない―ということで、もし叱ったりするようなことがあれば、子どもは劣等感をもってしまいます。ぼくはダメなんだと思い込んでしまいますと、その状態から救い出すのには非常に時間がかかってしまうのです。もうすでに、お母さんが教え込もうとしていることに対して、抵抗感をもち始めているのではないでしょうか。

どう思いちがいをしたのか、2年保育の幼稚園に入れる前に、数と字を教えておかなければいけないと思って、毎日特訓をしたお母さんがいます。ところが効果はなく、勉強に拒否的となり、小学校3年生のときには学校の勉強についていけなくなってしまいました。しかも、友だちに対して攻撃的な行動が多くなり、先生の言うことも全く聞かない―ということで、相談にみえたのが、その子どもとの出会いでした。いっしょに遊んでみますと、すっかり心が荒れていて、どこからその子どもとのコミュニケーションを作り出したらよいか、初めのうちは見当もつかないほどでした。お母さんは、「この子は何をやってもダメな子なんです」と、全く見放した言い方をしていたのです。そのような子どもにした自分の責任に気づいたのは、半年もカウンセリングが続いてからでした。そして、お母さんは、その子どもといっしょにお風呂に入ったり、絵本を読んであげたり、いっしょに旅行をしたりしました。その結果、子どもの情緒が落ち着いてきますと、友だちへの攻撃的行動はなくなり、先生の言うことを聞くようにはなりましたが、勉強に対しては拒否的であったために、特殊学級へ移り、そこで非常によい先生に恵まれて、少しずつ数や文字をおぼえるようになったのです。

文字や数の勉強は、原則的に言えば小学校に入ってからです。すぐれた先生たちは、入学前に幼稚園や家庭で数や文字を教えられた子どもは、教育しにくいと言っています。ところが残念なことに、1年生のときに教える分量が多いものですから、数や文字は知っているものと思って教育を始めるような困った先生がいますし、お母さんが勉強をみてくれなければ困りますなどと、専門家としては非常に無責任なことを言う先生がいるので、お母さんたちがあせって勉強を教え、それが子どもを苦しめている例が少なくないのです。

家庭でなければできない教育を

家庭でお母さんがする教育は、家庭でなければできない教育です。それは、第1に、情緒の安定をはかり、「思いやり」のある子どもにすることです。それには、温かい雰囲気の中でいっしょに遊んだり、絵本などを読んであげることです。いっしょに遊ぶ中で、数量の概念を育てることができます。おやつのビスケットを子どもに配ってもらってもよいでしょう。絵本を面白く読んであげると、「これ、なんという字?」と子どものほうから聞いてくるでしょう。私の孫はのりが大好物であったので、のりの「の」に興味をもち、新聞の中の「の」ばかりを探している時期がありました。幼児期は、「遊び」の中でいろいろと学習していく時期です。それだからこそ、「遊び」は学習であると言われているのです。どうか数や文字を教え込もうとすることをやめて下さい。そして、子どもと楽しく遊ぶお母さんになって下さい。いっしょに遊ぶ中で、子どもの学習面が開発されていくからです。

 

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