不潔を恐れ、日に何度も手を洗います。あまり清潔にこだわるので心配です

「1人っ子の女の子で5歳3ヵ月になりますが、とても神経質で困っております。例えば食器は決まられた物以外は使いませんし、必ず同じ場所に置いておきます。またタオルやハンカチは他の人が使った物は一切使いません。そして1日に手を何度も洗い、友だちと手をつなぐときでも「お手々きれい?」と念を押します。両親共に神経質ですので大いに反省はしているのですが、指導によって少しでも神経質な点がなおるものでしょうか。」

親の不潔恐怖をなおすのが先決です

子供というものは、もともと清潔などにはこだわらない存在です。赤ちゃんを思い起こしてごらんなさい。屑篭に捨ててあるようなものでも口に入れるでしょう。きたない手で食べ物をつかんでしまうでしょう。ですから、だんだんに不潔なものと清潔なものとの区別を教えていく必要があるわけです。

ところが、その点を教えることに急ぎますと、子どもの心には、不潔の対する恐れの気持が強くなって、子どもらしいいきいきとした遊びができなくなってしまいます。子どもの中には、自分の食器以外では絶対に食べようとせずに、旅行のときにもそれをもって出かけなければならないという子どもがいます。自分のタオルを貸すことをいやがったり、友だちの使ったものには一切手をつけない子どもがいます。また、手のきたない子どもとは手をつなぐことをいやがります。  

そのような子どもは、家庭でも何回も手を洗うので、手がふやけてしまうことさえもあります。

こうした強迫症状(ノイローゼの一症状)は、ふつうは思春期以後になって目立ってきますが、幼児期にも表れることがあります。その場合には、家族の中に不潔恐怖の人が必ずいます。それがお母さんであったり、お父さんであったり、両親ともに神経質だということもありますし、お年寄りが潔癖症だということもあります。ですから、何よりもまず、家族の不潔恐怖をなおさなければ子どもの症状はよくならないでしょう。

子どもには「遊戯療法」、親には「カウンセリング」

家族の不潔恐怖は、その家族が子どもであったころから、その両親によって植えつけられてしまったものであって、なかなか根の深い場合が少なくありません。私たちは、子どもに対して「遊戯療法」を実施するとともに、両親に対しては「カウンセリング」をします。子どもに対する「遊戯療法」とは、治療者が子どもといっしょに遊びながら、子どもの心にしこっている「こだわり」をだんだんにほどいていくのです。不潔恐怖のある子どもは、小さいときから、「あれをしていけない」「これをしてはだめ」といった具合に、親たちから命令的な抑圧を受けて、自発性の発達がすでにおくれていますから、まず、遊びが楽しくなるような雰囲気を作り出し、どのように行動してもそれらをすべて許容します。治療が進みますと、子どもは一時的に乱暴になったり、わざと不潔なことをしてみせたりしますけれども、こうした行動によって自分の心の「こだわり」を自分で(自発的に)解決しようとしているわけで、その時期を通り抜けますと、不潔などにはこだわらないでどんどん遊ぶ子どもに変わりますから、幼稚園でもお友だちとよく遊ぶことのできる子どもに変わり、社会性も発揮します。

親に対する「カウンセリング」は、親自身が自分の「こだわり」に気づいて、それがなぜかを考えるように援助しながら、子どもに対しておおらかな親に変わっていく経過を大切にします。お母さんの中には、自分の母親から厳しいしつけを受けたことの苦しさに気づき、同じことを子どもにしてしまっていた子育ての誤りを悟り、比較的短い期間でおおらかな人格の持ち主に変わる人がいますが、なかなか自分の「こだわり」に気づかず、子どもばかりを責めようとする人がいます。そのようなお母さんは、「遊戯療法」によって子どもがわく組みを外して乱暴な行動を始めるようになりますと、「悪くなった」と言い出すことがあります。

とくにお父さんの中にはなかなか頑固な人がいて、そのような人は「カウンセリング」を受けにもきませんし、「オレの考えは正しい」といってお母さんに対して押し付けがましい態度を取りますので、お母さんが苦しい思いをすることがありますが、カウンセラーはそうしたお母さんを援助するためにいろいろな努力をします。

いづれにしても、このような不潔恐怖の子どもをなおすには、両親やその他の家族の治療を第1に考えなければならないでしょう。あるいは、お母さんの不潔恐怖がなおらなければ、夏休みなどに、不潔などにこだわらない親戚の家に泊めてもらって、その家の子どもたちといっしょに1、2週間過ごしているうちに、すっかりなおったという例もあります。

 

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